×

『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』

『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』

3

すべての収容所では、遺体の穴という穴が、貴重品が隠されていないか調べられ、死者の口の中から金歯が抜かれた。ビルケナウの第二焼却所では、歯の詰め物や金歯は、塩酸のなかで洗浄され、中央収容所で溶解されて、金の棒にされた。
……

遺体の処分には三通りあった。
埋葬、焼却所での焼却、戸外での焼却である。
一九四二年には、クルムホフ、総督府の収容所、ビルケナウでは、死体は大きな墓穴に埋められた。
まもなく、死体の第二の処理方法が必要になった。
……同じ夏にソビブルでは、暑さに墓が隆起し、死体から出る液体が虫を集めて、むかつくような臭いが収容所に充満した。
……
ビルケナウの四つの焼却所の理論上の一日の焼却能力は、四四〇〇体を少し上回るものであったが、故障や減速のために、実際の限界はほぼいつももっと低かった。
……アウシュヴィッツの遺体処理担当者モルSS曹長は、長さ三五メートル以上、幅七メートル、深さ二メートルの穴を八つか九つ、掘るように指令した。
この穴の底から人間の脂肪がバケツで集められて、焼却を早めるために火に注がれた。
……腐った遺骸は、一度にまとめて火炎噴射器で始末された。
雨や霧の日には、遺体はゆっくりとしか燃えなかったが、穴の利用による焼却は最も安上がりで効率的な遺体の処分方法であった。
四四年八月には、二万体の死体を数日間で焼却しなければならなかったが、戸外の穴は遺体処分の障害を打ち破ったのである。
このように、絶滅能力は無限の状態に近づいていった。

『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』ラウル・ヒルバーグ
下巻227、228、229p 望田幸男他訳 柏書房 1997.11

ページ: 1 2 3 4 5 6

コメントを送信

You May Have Missed