×

『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』

『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』

……多くの隠蔽工作が行われた。移送と殺戮が実行された猛烈なスピードと性急さは、少なからず秘密保持のためであった。……
さらには、言葉によるカモフラージュも行われた。……
絶滅収容所→「労働収容所」あるいは、たんに「東方」
地下のガス室→特別地下室
地上のガス室→特別行動のための入浴施設
など

言葉によるカモフラージュと並んで、最も重要なことは、内部の者の口を封じることであった。……
しかし、関係者全員が、自分たちの知っていることを秘密にしておけたわけではなかった。
一九四三年、アウシュヴィッツの管理局は、「場所や、将来何に利用されるのかについて不安を引き起こすような言葉」あるいは「予定されている居住地について、抵抗を引き起こすようなほのめかしや推測」をユダヤ人に突きつけないよう、西部の保安警察・治安警察に要請した。
絶滅収容所に到着したばかりの者に、警備兵がときには秘密を公然と漏らしていたことを示唆する記録もある。
また、ガスの担当者であったゲルシュタインSS中尉は、一九四二年夏の終わりに総督府の収容所を巡回したのち、ワルシャワ=ベルリン間の急行列車に乗り合わせたスウェーデン外交官オッター男爵に、あらゆる機密事項を漏らしてしまった。
男爵は、絶滅収容所の存在についてストックホルムに報告したが、スウェーデン政府はこの情報を世界に公表しなかった。

『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』ラウル・ヒルバーグ
下巻218、219p 望田幸男他訳 柏書房 1997.11

ページ: 1 2 3 4 5 6

コメントを送信

You May Have Missed