黒岩涙香『死美人』
黒岩涙香『死美人』は、一八九一年十一月から『都新聞』に連載。翌一八九二年(明治二五年)、上下巻で刊行された。
涙香の初期の翻訳は、ガボリオ、ボアゴベイが多い。『死美人』の主役は、探偵ルコック。ボアゴベイが、早逝したガボリオに敬意を表して、晩年の名探偵を登場させた。涙香訳にふさわしい作品だ。
わたしが持っているのは、これをまた、江戸川乱歩が現代語訳したもの。ボアゴベイのガボリオ・キャラクター作品→英訳→涙香訳→乱歩訳、という階列になっているわけだ。
装幀に惹かれて、これを入手したのは五十年ほど前。外函に矢印型の切り抜きがあって、紙カバーに布装というつくりだ。この「日本探偵小説小説代表作集」(小山書店 一九五六)は、六巻あって、
一 黒岩涙香
二 佐藤春夫
三 江戸川乱歩
四 大下宇陀児
五 木々高太郎
六 横溝正史
不思議な選定だ。三以下をみても代表作とはいいがたいものを集めてある。図書館を調べると、「生活百科刊行會」刊などと出てくる。代表作選集にふさわしいのは、二だけだ。これは、持っているが、函もカバーもない裸本である。
ルコック探偵ものは、『ルルージュ事件』を数に入れても長編四作。ガボリオ・ボアゴベイ・涙香・乱歩によるリレー[合作]といえないこともない『死美人』を、そこに加えても文献探索者たちは諒とするだろうか。
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