×

エリザベス・ウェインの新作

エリザベス・ウェインの新作

 エリザベス・ウェイン Elizabeth E. Wein(1964-)の作品は、前から気になっていた。
 『北米探偵小説論21』では、G・11「約束された国の探偵小説」(1117-1156p)の
G・11・2「ブラッドランドの処刑人」(11136-1145p)の一部に組みこまれる目算だった。その時点で、『コードネーム・ヴェリティ』(2012 邦訳2017.3)、『ローズ・アンダーファイア』(2013 邦訳2018)が、紹介されていた。


 論考に押しこまなかった理由は、よく憶えていない。G・11「約束された国の探偵小説」という項目は、やはり現在進行形を無理に切りとって「枠」に入れるような強引さがあった。論述の見通しが悪くて、何度も書き直し、配置をならべ替えたり、四苦八苦した部分だ。頭のなかで整理がつかないので、やむなく対象からはずした、というところだったか。


 『祖国なき者たちへ』(2023 邦訳2026.4)が出て、無理して論じておいたほうが良かったかと、後悔している。
 とはいえ、前記の二作につづいて、Code Name Verity Cycle(シリーズ)として『The Pearl Thief』(2017)、『The Enigma Game』(2020)があることまでは、調べていなかった。いずれも、第二次世界大戦期をあつかい、女性飛行士の活躍を描くミステリに冒険ロマンを加味した作風だ。
 著者はアメリカ生まれのイギリス作家で、二国の国籍を持つ。本国では、ヤングアダルト部門での受賞歴があるが、「大人向き」の作家とはあつかわれていないのだろうか。こうした分類でいうと、深緑野分『戦場のコックたち』(2015)、『ベルリンは晴れているか』(2018)、逢坂冬馬の『同志少女よ、敵を撃て』(2021)もYA作品の棚にならんでしまう。
 それはともかく、今回の『祖国なき者たちへ』も Code Name Verity Cycle の一環として読まれてもいい。一〇代の飛行士たちの「謎解き」と冒険の物語だ。空のオリンピックと称される国際的な飛行機レース。建て前は、非政治的な各国の友好を目的とする。そこで事件が起こり、前半はその謎解き、謎の解明されたあとの後半は活劇となる。
 帯にある《「謎」の第1部。「驚愕」の第2部。そして、「慟哭」の結末。」は、どの作品にも共通する。
 舞台は一九三七年のヨーロッパ。シリーズの他作品と明確にちがっているのは、設定をいわゆる「大戦前夜」に絞っているところ。


 著者は「あとがき」に強調する。
 《本書は、どうか欧州が戦争に突入しませんようにと心から願った人たちの話です》
 刊行は二〇二三年だが、あとがきの日付は二〇二二年三月(つまり、ロシアによるウクライナ侵攻の直後)になっている。この時間経過は『祖国なき者たちへ』という作品の、内的なモチーフを、はっきりと際立たせている。
 Code Name Verity Cycle にも、戦争期を描きつつ反戦テーマを訴える良識は明確だった。
 それが『祖国なき者たちへ』では、さらに危機感として顕われているように思える。一九三七年。ヨーロッパの戦乱はまだ「避けられるかもしれない」といった段階にあった。後の「連合国」は、ファシズム勢力との妥協(あるいは、共存)点を探るあまり、ナチスの暴走を阻止することに失敗を重ねる……。
 歴史の教訓?
 二〇世紀前半に襲った破局がいままた数倍する規模で全世界に拡がりつつあるーー。といった不安は日々うすれていくどころか、ますます色濃い予感にふくれあがっていく。
 

コメントを送信

You May Have Missed