ヴェルヌの探偵小説
フランシス・ラカサンは、ヴェルヌの探偵小説として、「キップ兄弟」(一九〇二)「リヴォニアの悲劇」(一九〇四)「ダニューヴ河のパイロット」の三冊をあげている。
三冊ともヴェルヌが死んだ一九〇五年前後に出版されているし、ヴェルヌの作品のなかでは異色で、こうした作品を書いたことに興味はあるけれど、本質的にはヴェルヌ作品の延長である。どんな大家でも、一夜にして作品の質が変わるわけではない。しかし、空想科学小説の大家が探偵小説を意識して、少なくともその骨格を作品に反映させ、トリック小説を書いたことは、着目してしかるべきであろう。もともと、ヴェルヌの小説には、どの作品にも、ポーを意識したと思われるトリックが空の星のようにちりばめられていた。なにげなく読みすごすヴェルヌ作品のサスペンス・プロットに、さりげなく使われているのである。[…]
これらの三つの探偵小説のうち、「ダニューヴ河のパイロット」は、ヴェルヌが死んだ三年後、一九〇八年に発表されたが、じつはヴェルヌが一八八〇年に書いた作品であり、ルルーやルブランが出現する、二十年前の作品である。「リヴォニアの悲劇」は一九〇四年に公刊されたが、一八九三年の作品である。これは現存する、出版社エッツェルに宛てた、ヴェルヌの手紙で明らかである。「キップ兄弟」は、一九〇二年に公刊されたが、一八九五年から一八九七年にかけて書かれた小説である。
ーー『怪盗対名探偵 フランス・ミステリーの歴史』松村喜雄 晶文社 一九八五 110ページ

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