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マルセル・エイメ覚書8

マルセル・エイメ覚書8

戯曲作品
 邦訳は二冊(三作品)
Clérambard (クレランバール) 1950年
「クレランバール」 訳・原千代海 白水社 1956年

La Tête des autres (他人の首) 1952年
Les oiseaux de lune (月の小鳥たち) 1956年
「他人の首・月の小鳥たち」 訳・宗左近 東京創元社 1958年

 いずれも軽喜劇。
 小説家エイメの注釈として役立つ。
 『他人の首』のストーリーは、探偵小説的なものだ。冤罪にはめられた芸人と、はめた側の二人の検事が争う。芸人は検事二人のどちらも若い妻と密通している。脱獄して意趣を晴らそうとするが、姦通相手の一人に雇われた殺し屋に狙われる。殺し屋は、狙う相手を間違えたり、互いに喧嘩をはじめて、相手に逃げられたり……。冤罪、姦通、裏切り、殺人依頼と、題材は揃っているが、すべてが笑いのうちに発散されていく。
 『月の小鳥たち』は、他人を小鳥に変身させる超能力を持った青年が中心になる話。例によって、この超能力の詳細は明かされない。変身の結果、まき起こされる大騒動にしか作者の興味は向いていない。他人を変身させるのだから、魔術師の領域になるはずだが……。ここでも、風太郎忍法帖への[転位]は明瞭だが、影響関係を探っても仕方がない。超能力青年が時おり漏らす自己正当化の科白に、真情があらわれている、と読めなくもない。たとえばーー。
 「人間の存在なんて抽象概念にすぎない」19ページ
 「変身に論理的な理由などない」23ページ。
 「人間を変身させることを罰する法律なんかない」67ページ。
 「小鳥に変身すれば物事を考えなくてもよくなる」91ページ。

 他には『壁抜け男』が、一九九七年、ミュージカル化された。

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