DUPINからLUPINへ
驚くべきことに(後には、ルブラン自身も驚いたことだが)、ルブランが続篇を書こうなどと夢にも思わなかった短篇『アルセーヌ・ルパンの逮捕』が世に出たときには、かたちはすでにかたまっていた。つまり、『ルパン』ものの傑作に見られる「ルパン」だ。主人公はすでに「かの有名なアルセーヌ・ルパン」であり、その過去は輝かしい名声に彩られている。ルブランはルパンに命ぜられていたのだ。のちには、こんな風に言っている。「物語を語るのはいつも好きだったし、僕にとっては無意識みたいな仕事でした。ペンを取ると、アルセーヌ・ルパンが僕に命じるのです。僕は、かつてパリ市議員だったアルセーヌ・ロパンの名をちょっと変えて、どこに行くのかさえもよく分からずに書いたのです。『アルセーヌ・ルパンの逮捕』をね」。
ルブランがロパンの名を変えたのは無意識だった。[…] ルパンはまた、ルブランが熱愛したバルザックの『人間喜劇』にたびたび出てくる名でもある。
ーー『いやいやながらルパンを生み出した作家 モーリス・ルブラン伝』ジャック・ドゥルワール 一九八九、二〇〇一 小林佐江子訳 国書刊行会 二〇一九 171ページ
この本は、ルパン作者の唯一の伝記。四一歳で通俗小説の流行作家に路線転換した作家が、以降、死ぬまでの三十余年「いやいやながら・ルパンに命じられて」シリーズを書きつづけた生涯を、精密にたどった労作である。
正直なところ、もう少し「面白い」と期待したんだが、どうも……。平面的な事実(よく調べたと、敬意は評したいけれど)の羅列に、だんだんと失望せざるをえなかった。
LUPINはどこから来たのか。もちろん、半身はDUPINの「弟」だ。初期ルパンがあれほどホームズ(後に、ヘルロック・ショルメズと改名)を敵役として愚昧に使いまわしたことの理由は、そこにしかない。同時に、ルパンは、大バルザックの描いたヴォートランの正統な後継者でもある。
ーーここに、仏蘭西探偵小説がわれわれを誘惑してやまない秘密の「鍵」がある。誰もまだ開けたことのない鍵が。


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