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『ヨーロッパ戦後史』

『ヨーロッパ戦後史』

 しかしいずれにせよ、東ドイツ当局には西側当局と同じく、選択肢などほとんどなかった――元ナチ以外のいったい誰と手を組んで国を運営したらいいのか?

……
新しい体制は、結局のところ、以前彼らが経験したものとよく似ていた。
共産党は「ドイツ労働戦線」〔御用組織〕とか居住ブロック委員といったナチの組織・制度をそのまま引き継ぎ、新しい名称をつけて新しい責任者を任命した。
しかし元ナチの連中が示した適応能力は、彼らが恐喝されやすいということをも示していた。
ソヴィエト当局は決然としてかつての敵と共謀し、東ドイツにおけるナチズムの本質と広がりに関して嘘を撒き散らした――ドイツの資本主義およびナチズムの遺制は西側地域に限られており、未来のドイツ民主共和国は労働者、農民、反ファシズム英雄の国である、と。 ……

個人や組織がナチズムないしファシズムからやすやすと鞍替えしたのは東ドイツ特有のことではなかったが、他とちがっていたのはおそらくその規模だったろう。
イタリアにおける戦時中のレジスタンスは多種多様な元ファシスト党員をかなりの数抱えこんでおり、イタリア共産党が見せた戦後の穏健さは、その潜在的支持者の多くがファシズムに染まっていたという事実に起因していたのかもしれない。

『ヨーロッパ戦後史』Post War 2005 トニー・ジャット
森本醇訳 みすず書房 上78、79p

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