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『ヨーロッパ戦後史』

『ヨーロッパ戦後史』

 ここでさまざまの問題が起こった。
「協力者」とは何か?
彼らは誰に、何の目的で協力したのか?
……こうした難問は国によってさまざまな形があったが、共通のジレンマはただ一つ――この六年間にヨーロッパが経験したことには前例がない、ということだった。

……
処罰された人数および処罰の範囲は、国によって大きく違っていた。
人口わずか三〇〇万のノルウェーでは、親ナチ協力者の主要組織「国民連合」の全メンバー五万五〇〇〇人の全員が、その他四万人とともに裁判にかけられ、男女合わせて一万七〇〇〇人が禁錮刑、死刑判決が下った三〇人のうち二五人が執行された。

……
正当性をもつ政府が亡命していたノルウェー、ベルギー、オランダ(およびデンマーク)と、ヴィシー政府が多くの人びとにとって正当な政府であったフランスとが示すちがいは、なかなか示唆に富む。
デンマークでは協力の罪など、実質的には知られていなかった。
ところが戦後の裁判では、デンマーク人一〇万人当たり三四七人もが投獄を宣告された。
戦時中の協力が知れわたっていたフランスでは、まさにその理由で、処罰が軽いものになった。
国家自身が主たる協力者だったから、同罪で下級市民を告発することは過酷かつ分裂の種となるようにも思われたのだ。
フランスで協力者裁判にたずさわった判事たち自身、その四人に三人は協力主義をとった政府に雇われていたのだから、なおさらである。

『ヨーロッパ戦後史』Post War 2005 トニー・ジャット
森本醇訳 みすず書房 上59、61p

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