マルセル・エイメ覚書1
いくつかの項目がならぶが、その第一は、童話作家としてのエイメの一面を考察する。
エイメの童話は、短編連作の十七篇があり、『おにごっこ物語』『もう一つのおにごっこ物語』に全訳されている。書かれたのは、一九三四年から四四年。いわゆる大人の鑑賞にも耐える童話として、今も版を重ねている。一九六三年にイラスト入りの二冊本(十五篇)が出て、これは『牧場物語』として翻訳されている。他にも、部分訳がある。英訳版は『ワンダフル・ファーム』のタイトルで、モーリス・センダックのイラストつきの版もある。
エイメは序文で、「りんごの樹の下で家の猫に聴かされた話をそのまま書きました、動物の言葉を解する子供たちに贈ります」といっている。
自然主義リアリズムの描写にファンタジーが無雑作に溶けこむ語り口、温かみのなかに虚無感と孤独のよぎる質感、話の多彩さなど、エイメ作品の特質はここに溢れている。これを代表作とする評者もいることに不思議はない。もう一つ、ジョージ・オーウェルの『動物農場』(一九四五)への影響も考えられるだろう。
翻訳の一覧
おにごっこ物語 | 岩波少年文庫 | 鈴木力衛訳 | 一九五六 |
もう一つのおにごっこ物語 | 岩波少年文庫 | 金川光夫訳 | 一九八一 |
牧場物語 コント・ルージュ | 日本ブリタニカ | 飯島耕一訳 | 一九八〇 |
牧場物語 コント・ブルー | 日本ブリタニカ | 飯島耕一訳 | 一九八一 |
猫が耳のうしろをなでるとき(五篇) | 大和書房 ちくま文庫 | 岸田今日子・浅輪和子訳 | 一九七九、一九八八 一九九六 |
ゆかいな農場(七篇) | 福音館書店 | さくまゆみこ訳 | 二〇一〇 |
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