フランスの敗北
スパイク・リーの新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』は、ヴェトナム復員兵の黒人4人組が数十年ぶりに、金塊捜しのために「戦地」を再訪するハナシ。寓話なのか、アジテーションなのか。あの「汚い戦争」は黒人を犠牲にしたーー。抗議の色調は明快だが、長すぎる映画のあちこちに、ひところのリー作品の不透明な「わけのわからなさ」が前面に出たりして……。それは、このさいどうでもいい。
4人組が金塊運びの売人(フランス人)と交渉するシーンがあった。デルロイ・リンドーがジャン・レノに向かって吼える。ーーおまえら腰抜け野郎が〈ヴェト公〉に負けたおかげで、わしら〈ニガー〉が「正義の戦争」に駆り出されて、大勢死んだ。借りを返してもらおうじゃないか、と。彼の頭には、「アメリカを再びグレートに」のロゴが入ったトランプ・キャップ。ラストの銃撃戦では、同じ帽子がレノの頭にのっかる。このジョークで肝心な要点は、フランスは負けたし負けつづけている、ということ。
「共和国は誕生し、一〇〇年のあいだに三度もよみがえった。つねにフランスによって」ーーこの一行は、ミシュレの『フランス史Ⅵ』からのもの。この熱狂的な「偉大なフランス・フランス第一主義」は一九世紀の歴史への讃歌だ。これをもじっていえば、二〇世紀、フランスは三度も負けたーーとなる。一九四〇年ドイツに負け、ヴェトナムで負け、アルジェリアで負けた。共和国の第何次であろうが委細は関係ない。一貫して負け、ヨーロッパの一帝国としての黄昏を通過していった。その風景が、達者で饒舌なアメリカ映画の一シーンに切り取られた。
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