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『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』

『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』

『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』H・ブストス=ドメック(ホルヘ・ルイス・ボルヘス&アドルフォ・ビオイ=カサーレス) 1942

〈序文〉
犯罪捜査を描いた記録は山ほどありますが、監獄に閉じこめられた最初の探偵という栄誉に輝いているのは、ドン・イシドロでしょう。
しかし、嗅覚の鋭いことで知られる批評家なら、この探偵の先輩にあたると思われる人物を何人か挙げることでしょう。
勲爵士オーギュスト・デュパンはフォーブール・サン・ジェルマンの小部屋に夜遅くまで閉じこもって、モルグ街の悲劇を引き起こした人騒がせな猿を捕まえました。
宝石とオルゴール、取っ手がふたつついたギリシア時代の壺と石棺、翼のある牡牛と偶像、それらが雑然と並んでいる豪華な装飾を施した城に住むプリンス・ザレスキーは、遠く離れたその隠棲所からロンドンで起こる難事件を解決しています。
忘れてならないのは、マックス・カドラスで、盲目という、闇に閉ざされた牢獄を自らの内に抱え込んでいます……。
こうした書斎派の探偵、好奇心に駆られて部屋の中を旅する旅人は、部分的ですがぼくたちの(ドン・イシドロ・)パロディの先輩にあたります。
探偵小説の歴史の中でおそらく生まれるべくして生まれてきた人物なのですが、アルゼンチンが成し遂げた偉業と言えるこの人物が着想されて、登場してきたのはカスティーリョ大統領のころで、このことは声を大にして言わなければなりません。
パロディが牢に閉じこめられているというのは、知性の象徴にほかにらず、そのことが熱に浮かされたように意味もなく動き回る北米の探偵に対する痛烈きわまりない批判になっています。

『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』ホルヘ・ルイス・ボルヘス&アドルフォ・ビオイ=カサーレス
木村榮一訳 2000.9 岩波書店 16p

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