マルセル・エイメ覚書6
戦後小説『パリのワイン』
短編集『パリのワイン』(一九四七)は八篇から成る。「パリ横断」「パリのワイン」「よい絵」が前記『壁抜け男』に収録されているほか、「クールな男」「恩寵」「偽警官」「変身(デルミューシュ)」と計七篇の邦訳がある。内訳は、以下ーー。
「クールな男」 『クールな男』一九九〇 『マルセル・エメ傑作短篇集』二〇〇五(左記と同一内容)
「恩寵」「偽警官」 『世界文学全集37』集英社 一九六六
「変身(デルミューシュ)」 『壜づめの女房 異色作家短編集18』一九六五 など
奇妙な敗北とそれにつづく奇妙な被占領、そして連続してフランスは、奇妙な戦勝国となった。その途上に書かれた『パリのワイン』は、その前後の長編『学生たちの道』(一九四六)、『天王星』(一九四八)もふくめて、エイメ作品のなかでも最も時代証言性にあふれた小説集といえる。これらのなかからは、エイメの特徴である幻想的要素が薄れていった。その理由について、前記の『小説の時代』は、《戦時と戦後のフランスの社会生活の特質だけで、十分に超自然的であり、幻想的》(佐藤朔・若林真訳 紀伊國屋書店 一九五九 88ページ)だったからだ、と述べている。この観察は、エイメの超現実な作風が作為的・技巧的世界ではないことをも、よく説明するだろう。奇妙奇天烈なのは、フランスの現代社会のほうであり、作家はその現実に、誠意をもって鋭敏に反応したにすぎない、ということだ。
Le Chemin des écoliers (学生たちの道) 1946年
Le Vin de Paris (パリの葡萄酒) 1947年 短編集
Uranus (天王星) 1948年
En Arriere(後退) 1950年 短編集
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