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2 シメノンからシムノンへ

2 シメノンからシムノンへ

 乱歩の『幻影城』には、下記の戦前刊行本リストがある。
シメノン傑作集  四六仮  六〇銭 自昭和十年五月 至同年八月  春秋社
○聖フォーリアン寺院の首吊男 ○リエージュの踊子 ○ロンドンから来た男○山の十字路 ○水門 
○下宿人 ○モンパルナスの夜 ○情死 ○猶太人ジリウク○ロアール館 ○ダンケルクの悲劇

 別タイトルとの照合は略。

 これらは、時折りものすごい値札がついて古書市場に出るのを必死で競り落としたり、あるいは、国会図書館に通いつめたりすることによって、だいたいはリサーチ可能なようだ。

 もう一つ、大乱歩の文献から(HPB『霧の港』1954.12の解説)
 今年九月早川書房がシムノンの全作品の翻訳権を獲得したので、別にシムノン選集を出すことになり、第一期五冊の翻訳が進行中である。
 ★ベべ・ドンジュの真相(斎藤正直)
 ★家の中の見知らぬ人(遠藤周作)
 ★雪は汚れていた(永戸俊雄)
 ★我が判事への手紙(那須辰造)
 ★過去の女(松村喜雄)

 このリストに、◎『メグレの休暇』水戸俊雄訳 ◎『帽子屋の幻影』秘田余四郎訳
 そして◎『メグレとしっぽのない子豚』が続刊されて、早川ポケット・ブック版の「シメノン選集」八巻があるはずだ。
 じつは現物にたどり着いていない代物もあり、断言するのは心もとないわけで。
 これらは、①別訳の新訳が出たもの、②この刊行本かぎりで古書価値が高騰しているもの、に大別される。しかし、上記五点のうち、そのどちらにもあてはまらず、そのまま模様代えしてHPBの一冊に「化けて」しまったものもあり、文献探索者の搭載メモリが貧弱なアタマのなかは、シムノンとシメノンとは別人28号だったのかと一瞬うたがったりして、カオスの蜘蛛の巣になる。
 他にHPBに入っているシムノン・ロマンは次の七冊だ。
 『リコ兄弟』『ベルの死』『カルディノーの息子』『可愛い悪魔』『娼婦の時』と短編集の『死体が空から降ってくる』『上靴にほれた男』
 少ない。いや、少ないという以上に、「どうしてこれがミステリなんだ?」と悩まされるような問題作ばかり並んでいる。
 このあたりの、興味津々たる謎の行方はーー。
 それを追いかけるには恰好の資料がある。
 都筑道夫による現場証言がそれだ。

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