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メグレ作品リスト1

メグレ作品リスト1

① 怪盗レトン(1930 執筆1929.9) Pietre-le-Letton

 『怪盗レトン』は、メグレ・シリーズの第一作。一九二九年九月執筆。刊行は翌年。
 続く三年間のうちに、シリーズは十八作を数えた。第十九作『メグレ再出馬』(一九三四)をふくめ、これらが、初期メグレとよばれる作品群だ。

  • 『怪盗ルトン』松村喜雄訳 探偵倶楽部 1954
  • 『怪盗レトン』木村庄三郎訳 創元推理文庫 1960   旺文社文庫 1978
  • 『メグレ対怪盗』稲葉由紀訳, 東都書房[世界推理小説大系]20巻  1963
  • 『怪盗レトン』稲葉明雄訳 別冊宝石 1963  角川文庫 1978

 作品番号について。
 シムノンに関しては、正確な数字を示すことがむずかしい。これは、クリスティやコナン・ドイルの作品が、愛好家から[聖典]あつかいされ、その作品点数も厳密に精査されていることに較べると、いかにも不当な事態だ。五十巻からなる邦訳最新の『メグレ警視シリーズ』では、七十八冊もしくは一〇二篇と、二つの異説が採られている。前者は、既述の『世界ミステリ全集9』巻末にあるリスト(北村良三編)によった数字だろう。別の短編集五冊が混じっているので、正確な数字ではない。
 後者の一〇二篇という数字は、ジル・アンリの研究書からのもの。各作品の執筆年月・執筆場所が調査され、明記されている。これをもって定説とすればいいのだが、そう簡単にもいかない。「篇」とあるとおり、このリストには、長編も短編も並んでいるからだ。これは、研究家の落ち度ではない。問題の根源には、シムノンの長編が平均より短すぎ、そのうえ、短編集が分厚すぎる(長い短編もなかにはあるが、作品採録点数が平均より多すぎる)、という特質がある。一般的な尺度による[長編・中編・短編]という明瞭であるべき分類が、たんにページ数のみからいっても判別しにくい、ということだ。後期のものになるほど、引き伸ばされた(シムノン尺度によって)短編という質感が強くなるので、判別はますます面倒になるだろう。
 ここでは、暫定的に、邦訳を基準として、刊行された作品に番号をつけ、七十点を数えることにした。後期メグレは、戦後にスタートし、その[絶筆]まで、二十数年のうちに五十作近くを、安定して供給しつづけた。
 前期と後期のはざまにある期間は、短編による模索と捉えることも出来る。これも、邦訳を基準として数えて、短編集は六点作品数は四十作ある。

 二〇代のペンネーム時代の作品が二〇〇余。メグレもの以外の作品(犯罪小説もあるし、普通小説もある)が一二〇作(このうち、三分の一は邦訳がある)。合計すると、四〇〇作ほどが、この作家のアベレージとなる。

3件のコメント

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瀬名秀明

その1
初めまして。私は作家の瀬名秀明と申します。
私は「翻訳ミステリー大賞シンジケートブログ」にて、2014年12月から「シムノンを読む」という連載をしており、基本毎月1冊ずつシムノンの著書を読んで感想を書き記すということをしております。
http://honyakumystery.jp/category/writers/writers15

ここでは最新の書誌に基づいた情報をなるべく提供するよう心がけており、拙連載をお読みいただければ、おおむねシムノンの正確な書誌がわかるようになっています。シムノンについては日本では古い情報しか出回っておらず、またそれらも決して正確とはいえないため、フランス語圏における最新情報をつねに確認する必要があると思っております。
シムノンの書いた《メグレ》シリーズは、下記ウェブサイトにもある通り、長編75、中短編23の、計103編です。ジル・アンリ『シムノンとメグレ警視』(原著1977)が書かれたころは単行本未収録の中編「死の脅迫状」が世間に出回っていなかったため、その1編分が少なくカウントされているのです。
http://www.association-jacques-riviere-alain-fournier.com/reperage/simenon/bibl_maigret.shtml

シムノン名義のすべての小説作品は、現在もフランス語圏で流通しているオムニビュス社Omnibusの《シムノン全集Tout Simenon》全27巻で読めます。《メグレ》シリーズだけなら同じくオムニビュス社の新版《メグレ全集Tout Maigret》全10巻で読めます。拙連載の「番外編 シムノンを調べる」では、書誌情報獲得に有用な文献も多数紹介していますので、ぜひご参照いただければと思います。
http://honyakumystery.jp/1465254615

拙連載では毎回、取り上げる作品について最善の書誌情報をリストアップしていますが、私自身が入手できていない訳本などはあえて記していません。ですが連載が続くなかで、有用な新情報が得られた場合は紹介するよう努めています。たとえば『怪盗レトン』は、最新研究によるとおそらく執筆時期が1929.9ころであり(諸説あり)、新聞掲載が1930.7.19号から1930.10.30号、単行本刊行は1931.5です。
また日本ではジュニア向け翻訳として『怪盗レトン』〔中二ライブラリー 中学時代二年生10月号第4付録(5巻7号第4付録, 1960)〕、『怪盗の二つの顔』〔中学生ワールド文庫 中学二年コース 1962年2月号付録〕もあり、現在は入手しておりますが、ジュニア向け付録翻訳は一般的に邦訳リストに含めないことも多いです。

シムノン作品は膨大であり、また誤った古い情報も多いので、日本語の文献を見るだけだと間違えてしまいかねません。今後フランスミステリーの評論をご出版なさる計画があるようですので、よろしければ拙連載の記述も土台のひとつとしてご参照いただければと思います(公共への情報提供も兼ねてボランティアで書いております)。書誌を調べる時間が大幅に短縮できることと思います。
とつぜんのことで失礼致しました。お返事等は無用です。どうぞお気遣いなく。
すばらしい著書となりますよう心から祈念しております。

(その2で《シムノン全集Tout Simenon》全27巻の総目次を挙げておきます)

    comments user
    xfnads

    懇切なコメント恐縮です。
    瀬名さんの『十三の謎と十三人の被告』の解説は参考にさせていただいていますが、web連載のほうまでは、まだ手がまわっていません。「翻訳ミステリー大賞シンジケートブログ」は何回か覗いたのですが、すみません、「シムノンを読む」にたどり着かなかったお粗末です。
    正直、シムノンは苦行なので、このページもメモをアップしては手直ししたりして、難航しているところです。心強い援軍を得たような想いで、本の執筆と併行してこのページをつづける方針を採って幸いだったと想えます。書誌については、有り難く活用させていいだく所存です。

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瀬名秀明

ありがとうございます。

いま見直したら、投稿コメントの一部が間違っておりました。
×長編75、中短編23の、計103編 →○長編75、中短編28の、計103編
ですね。失礼いたしました。

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