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ヴィドック

ヴィドック

 (一七九九年、ジョゼフ・フーシェが警察大臣になる。)
 フーシェはずば抜けた謀略家で、クーデターに参加してナポレオンの政権獲得に貢献した。警察の行政権を四つに区分し、おのおのに政府顧問を置いたのは、のフーシェであり、革命前の諜報機構を続行し、およそ三百人の間諜〈スパイ〉を雇ったのも彼である。諜報員の多くは前科者だった。一八〇〇年にはこの監督権は全体を管轄する機関である警視庁の警視総監の手に委ねられた。ヴィドックが最初に加わったのはこの組織で、その後権勢を増して警視総監のもとで采配をふるうようになる。しかしその途上で、かなりの敵意や疑惑に直面するのである。
 ヴィドックの自伝に、いかにあいまいなことや不正確なこと、また嘘っぱちが書かれているとしても、警視庁特捜班の設立がヴィドックの考案によるものだったことはまちがいない。それは私服の秘密警察隊で、当時憲兵は許可証がなければ地区の境界を越えて犯罪者を追うことができなかったが、その狭い区画に妨げられないようにつくられたのである。その結果マレ地区で窃盗を働いた犯罪者は、川を渡っても、もはや安全とは言い切れなくなった。一八一一年の秋、ヴィドックが保安部に入ってから六カ月足らずで特捜班が生まれた。「盗人を捕まえるに盗人をもってする」というほとんど完全な例である。
ーー『わが名はヴィドック』ジェイムズ・モートン 二〇〇四 栗山節子訳 東洋書林 二〇〇六 167-168ページ

 近代警察の基礎をつくった人物が、近代探偵小説の探偵(ヒーロー)の原型をも提供している。その点は、バルザックを媒介にすることによって、より汎くより深く了解されるだろう。

 このあたりの事柄は、他の書物にも指摘されているから、それをなぞるだけに終わらない観点が必要だ。

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