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『スイス銀行の秘密 マネー・ロンダリング』ジャン・ジーグレル

『スイス銀行の秘密 マネー・ロンダリング』ジャン・ジーグレル

『スイス銀行の秘密 マネー・ロンダリング』ジャン・ジーグレル 1990

スイスき心を奪う美しい自然で、私の世界、人間、歴史の見方を養ってくれた。
しかし犯罪の温床としてのスイスは、私の理解を超えるものがある。

スイスは今日、「死の金」のマネー・ロンダリングとリサイクルの、世界でもっとも重要な中心である。
スイスは、すでに何世代にもわたって、衛生と、健康と、清潔の象徴だった。
それが今日では、腐敗の温床である。
あきれるほど道徳観念がないスイスの経営者、財政家、弁護士の助力によって、麻薬と犯罪の多国籍犯罪組織は、民主主義社会にとって、事実上見えない敵となる。
この意味で、スイスは裏表の顔をもっている。

現代のフランスを理解することは難しい企てである(が、出来ないことではない)。
だが、スイスの本質を捉えることは、不可能と言わなくではならない。
ヘルヴェシア連邦共和国[スイスの正式名]ほど、自らを知らず、型通りで、秘密主義で、反省なぞ絶対にせず、その不透明性を頑固に守ろうとしている社会を形作っている国を、私は知らない。

人口六八〇万。
四つの異なった種族(ドイツ系、フランス系、イタリア系、ロマンシュ系)からなり、敬服すべき頑固さで、先祖伝来の文化、言語、宗教、習慣、偏見や儀礼を守っている。
このうちスイス国籍を有する者は、五八〇万、一〇〇万はスイス居住の外国人である(この大部分が市民権を一切持たない外国人労働者である。たとえばジュネーヴでは、労働人口の五一パーセントがこれらの外国人労働者である)。
スイス市民と外国人労働者は、アルプスの弓状地帯と、ジュラ山脈の石灰岩台地の間の国土に住んでいる。
スカンジナヴィア半島とイベリア半島を除く、ヨーロッパ大陸のすべての偉大な文明の四つ辻であり、面積四万二二九五平方キロ、人が住めるのはその三分の一に過ぎない。

世界でもっとも富んだ国は、アラブ首長国連邦である。
スイスは、これに次ぐ。
アラブ首長国の資源は石油である。スイス[首長国]の資源は他人の金である。
スイスの通貨は、世界でもっとも強く、安定したものの一つである。
一九八九年に、スイス連邦銀行は、二五九〇トンの金準備を持っていたが、これは中央銀行の持つ金準備としては、世界で三番目である。
地球の居住可能地帯の〇・一五パーセント、人口では〇・〇三パーセントしか占めない小国だが、その役割は大きい。
世界第二の金融市場第一の金市場再保険市場としても一位である。


『スイス銀行の秘密 マネー・ロンダリング』ジャン・ジーグレル 荻野弘巳訳 1990.12 河出書房新社 9、10p

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