C・ハイムズの旧作
『逃げろ逃げろ逃げろ Run Man Run』は1959年の作。フランス語版で出て、1966年に英語版となった。墓掘りと棺桶刑事コンビのシリーズ外。発掘・新訳が実現した。(新潮文庫 田村義進訳)

『北米探偵小説論21』での記述ーーBブラック・ノワール、3ハーレム警察小説(879-891p、893-896p)は、シリーズ作にしぼられていたので、この作品にはふれていない。「書いておけば良かった」の対象外だった。
テーマとしては、タイトル通り「逃げる男・逃げる黒人男」の受難のスペクタクルを全開にした。シリーズ第一作『イマベルへの愛』の再奏だ。情感は一つながり。しかし、グロテスクな情景の幕開けに頼る、という後の作品傾向が早くも出てきている。
ーー泥酔した白人警官による黒人射殺の場面が、どぎつく歪んだ残酷描写によって延々とつづく。この警官が一方の主人公なので、黒人刑事の出番はない。
やはり、出色なのは、18章の、必死に逃げる男とともに活写される黒人街ハーレムの動態だ。彼は書店のウインドウに飾られた黒人男性作家たちの著名作品を眼にする(278p)。作者は、そのリストを数行にわたって記す。ーージョージ・スカイラー、リチャード・ライト、クロード・マッケイ、ラングストン・ヒューズ。現実に、こんな書店が存在したのだろうか。


コメントを送信